岡田研究室

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シーラカンス

1. シーラカンスについて

1-1. シーラカンス発見について
1-2. 生きた化石とは
1-3. シーラカンスの形態学的特徴
1-4. シーラカンスの分子系統学的研究
1-5. 近年に見られる、シーラカンス捕獲地域の広がり
1-6. タンザニア北部にシーラカンスの繁殖集団を発見
    -“生きた化石”の保全に向け重要な一歩-


1-7. 生きた化石シーラカンスの全ゲノム塩基配列を解読
    -水中から陸上への進出メカニズム解明に向け大きな一歩-
本研究成果のポイント
  • 次世代ゲノム技術を駆使し、タンザニア産シーラカンスの全ゲノムを解読しました
  • ゲノムサイズは、わが国の独自プロジェクトで決めた中では最大の27億塩基で、ほぼヒトゲノムに匹敵する大きさでした
  • 魚類では見つかっていない新しい遺伝子がシーラカンスゲノムには数多く含まれている可能性があります
  • 絶滅危惧種の保全に対しても、全ゲノム情報の有効利用が期待されるものです

【概要】
東京工業大学大学院生命理工学研究科、国立遺伝学研究所、東京大学大学院新領域創成科学研究科の研究者からなるグループは、文部科学省新学術領域研究「ゲノム支援」のサポートにより、このたびシーラカンスの全ゲノム塩基配列の解読に成功しました。
生きた個体が世界で初めて発見されてから70年余、世界の研究者から注目を集めてきたシーラカンスのゲノムの全貌がようやく明らかにされたことになります。

今回、タンザニア連合共和国産シーラカンスのゲノム解析を行った結果、ゲノムサイズはおよそ27億塩基対でヒトを含めた哺乳類とほぼ同等の大きさであることがわかりました。
また、遺伝子や反復配列の構成を調べたところ、シーラカンスゲノム中には魚類タイプのものと四足動物タイプのものが共存していることが明らかになり、シーラカンスはまさに魚類と四足動物をつなぐミッシングリンクであることがゲノムレベルで示されました。
今後はシーラカンスと四足動物で共有している様々な遺伝子について機能解析を進め、祖先グループにおける陸上進出の鍵を探るとともに、絶滅危惧種でもあるシーラカンスの遺伝的多様性についても調べていく予定です。


◆研究の背景と経緯◆
1938年に南アフリカ共和国のカルムナ川河口において世界で初めてその生存個体が確認されて以降、シーラカンスには数多くの研究者が注目してきました。
それはシーラカンスが魚類と陸上四足動物をつなぐミッシングリンクとなる可能性が大きいためです。
シーラカンスの外見は魚類に似ていますが、系統的にはむしろ四足動物と近縁であり、体の構造を詳細に調べると魚類と四足動物のちょうど中間段階を示すものが多く見受けられます。
つまり、魚類がどのようにして陸上進出を達成したのかを明らかにするための重要な手がかりがシーラカンスゲノムに隠されているといえるのです。
このため、シーラカンスについては米国ブロード研究所でも東アフリカ・コモロ諸島産の個体を材料にゲノム解読を進めており、論文としての発表は行われていませんが配列情報を公共データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)から公開しています。

本研究グループでは今後さらに詳細な解析を追加し論文発表等を行う予定にしておりますが、絶滅危惧種でもあるシーラカンスの重要性にかんがみ、現時点で得られた研究成果を早期に公表することにしたものです。

◆研究成果◆
今回我々は、タンザニア共和国産シーラカンスの稚魚(参考図1)の鰓、心臓、筋肉からDNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いてその塩基配列を大規模に決定しました。

(参考図1)
タンザニア産シーラカンスの稚魚


タンザニア産シーラカンス成魚の剥製(東京工業大学蔵)

(photo:東京工業大学提供)

その結果、ゲノムサイズはおよそ27億塩基対でヒトを含めた哺乳類とほぼ同等であることがわかりました。
これまでに配列が決定された魚類ゲノムの中では最大です。

また、日本独自のプロジェクトとして決定したゲノムの中でも、最大のものとなっています(マグロ、メダカのゲノムサイズ:約8億塩基対、フグのゲノムサイズ:約4億塩基対)。
このように、シーラカンスのゲノムサイズは平均的な魚類ゲノムの3倍以上あります。
平均的な魚類の反復配列の構成を調べると、シーラカンスに特有なものが約2/3を占めていましたが、魚類タイプのものを多く残している傾向が見られました。

タンパク質をコードする遺伝子配列を大規模に比較して系統樹を作成したところ、シーラカンスは四足動物に近縁であることを強く支持する結果が得られました(参考図2)。

(参考図2)
大規模な遺伝子配列データから作成した進化系統樹


この解析に用いたデータ量は、シーラカンスの進化に関する先行研究と比べて最大であり、もっとも信頼性が高い結果であると言えます。
また、ゲノム中にタンパク質をコードする遺伝子が2万個以上みつかり、魚類タイプのものと四足動物タイプのものを合わせもつことがわかりました。
機能的な面でも、シーラカンスが魚類と四足動物の中間的な特徴をもつことがゲノムレベルで示唆された重要な知見です。


◆今後の展開◆
本研究で明らかになった全ゲノム塩基配列を、魚類、両生類、哺乳類と比較することで、陸上進出へのカギとなった形質の進化を明らかにしたいと考えています。
例えばシーラカンスのヒレ構造(参考図3)は魚類と四足動物の移行段階を示しており、この形質を詳細に研究することで祖先グループにおける四肢獲得のメカニズムに関して重要な知見が得られると期待されます。

<参考図3>
ゲノム解読に使用したシーラカンス稚魚のCT画像

赤丸:腹びれの関節部分

(協力:国立遺伝学研究所城石研究室)

また、東京工業大学グループが最近発見した新しいシーラカンス繁殖集団について、ゲノムにもとづく遺伝的多様性の解析を進めるつもりです。

最近の報道(2011年11月29日、日本経済新聞電子版)によりますと、シーラカンス棲息域の近海で世界有数の埋蔵量を持つ海底天然ガス田が発見され、事業化が計画されているようです。
シーラカンスの研究者としては、この計画がシーラカンスの棲息環境と個体数に重大な影響を与えないような配慮を期待するものです。


◆本研究に使用したシーラカンス個体について◆
シーラカンスの捕獲は、日本も批准しているワシントン条約によって禁止されています。
本研究に使用したシーラカンス個体は、2007年にタンザニア連合共和国北部のタンガで偶然混獲された雌の体内から発見され、同国水産研究所によって冷凍保存されていた稚魚10頭をワシントン条約に基づいて許可を得た後に国内に輸入したものです。


【用語解説】
  1. シーラカンス : 古生代デボン紀に出現したシーラカンス目に属する魚類の総称で、6500万年前には絶滅したと考えられていたが、その生きた個体が1938年に発見され、世界中にセンセーションを巻き起こした。現生種の形態が化石種のものと殆ど変わらないことから「生きた化石」と呼ばれている。1938年における生きたシーラカンスの発見は、生物学における20世紀最大の発見と言われている。
  2. 次世代シーケンサー : 国際ヒトゲノム計画で用いられたキャピラリ型シーケンサーとは異なり、個体表面上に固定した極めて多種類(1000億以上)のDNA分子を、逐次的に解析する装置。最新の装置では、1回の運転で、ヒトゲノムに換算して200ゲノム程度のデータを生産できる。
  3. 反復配列 : ゲノム上のある部位から別の部位へ移動したり、そのコピーを増やしたりするため、ゲノム中で何度も反復して現れる配列のことを指す。それらは転移因子とも呼ばれ、転移のメカニズムの違いからトランスポゾンとレトロポゾンに分類される。

【研究グループ】
  • 東京工業大学大学院生命理工学研究科
  • タンザニア連合共和国水産研究所
  • 国立遺伝学研究所
  • 東京大学大学院新領域創成科学研究科


【研究サポート】
この研究は、新学術領域研究「ゲノム支援」(代表小原雄治)により主導されたものです。
また日本学術振興会 アジアアフリカ学術基盤形成事業「シーラカンスを中心とした、タンザニア水域重要魚種の保全研究」(代表:岡田典弘)の支援も合わせて受けて進められました。




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